年始のご挨拶

 神坂晶は呆然と、ドアをあけたまま硬直した。

 それも無理のないことである。
 時刻は午前零時すぎ。家族で初詣に出掛けようとしていたときに、この非常識な時間になったチャイムに、腹を立てながらドアをあけたところ、そこに立っていたのは。

「よお」
「…………」

 晶は無言で、ドアを閉めた。
 ついでに鍵もかけてくるりと背中を向け、リビングにいるはずの父に声をかける。

「ねえ父さん、ストーカーがいるんだけど!」

 だがしかし、それに笑いを含んだ声で返してきたのは、出掛ける支度を済ませた母だった。

「やだ、晶。あんたの彼氏でしょ、あれ」
「彼氏!? 誰がいつそんなことっ――」
「あら、だってあの子、一緒に初詣行ってもいいですかって電話してきたし」
「……は!?」

 言葉を失う晶に、母はやけに機嫌のいい笑顔でドアをあけた。

「あけましておめでとうございます、お義母さん」
「お義母さん、ね。……うーん、やっぱり男の子に呼ばれるのっていいわねー」
「な……何馬鹿言ってるのよ、母さん! それより帰りなさいよ三條!」

 罵声を飛ばした晶に、三條は満面の笑顔で言った。

「いいじゃん、お姉さんがいいって言ってんだから」
「あら、口のうまい子ねー」

 実際母は若々しく見えるが、それはさておきだ。
 何でこんなに意気投合してるのよと頭を抱えた晶の肩を、咲がぽんと押した。

「お姉ちゃん、彼氏いたんだね。いいなー」
「……咲。とりあえず言っておくけどあれとあたしの間にあるのはクラスメートという関係だけだから誤解しないで頂戴」
「うわ、冷てぇなー」
「そうよ晶、とりあえず手ごろな男はキープしておきなさいな」
「そうそう、とりあえずそれっすよね」

 いや、本人目の前にして何言ってるの母さん。
 むしろ納得してるんじゃないわよ馬鹿三條。

 晶は頭痛を覚えつつ、玄関に出てきた父に言った。

「……父さん、この人たち止めて……」
「母さんは父さんには止められないんだが……」
「じゃあっ! とりあえずあの鬱陶しいのは置いていって!」
「わかったそうしよう」

 即答だった。どうやら父は、三條を娘につく虫と認定したらしい。
 味方を得て握りこぶしを作った晶に、もう、と母が憮然と返した。

「晶、母さんは人生の間違いをなくしてあげようと……」
「そいつに気を許したらそれが人生の間違いよ。母さん、悪いけどあたしはそういう男をキープにする気はないの」
「あ、じゃあ本命ってことで」
「……何をどうとったらそう解釈できるのかしら……?」

 怒りを必死に押さえつつ、襟首をつかんで詰め寄った晶に、わははと笑って三條はごまかした。
 ふう、と母がため息をつく。

「仕方ないわね。ここは公平に多数決と行きましょう」
「ちょっと母さん、あたしの意思は――」
「却下。民主的手段は個人の意思を聞き入れないのよ」

 待て、人の親がそんなこといっていいのか。
 そこはかとなくそんな気分が湧きあがったが、母はそれをきっぱりと無視して決を採った。

「さて。母さんと三條君は賛成で、父さんと晶は反対だったわね」
「ってことは……」

 四人の視線が、神坂家の次女に注がれた。

「え、えっと……あ、あたし?」

 自分を指差して戸惑い気味に反応した咲に、晶と三條はにっこりと微笑んで言った。

「ねぇ咲。あんたがあたしの幸せをかけらでも願ってるなら、まさか賛成なんてしないわよね?」
「咲ちゃん、この間ケーキおごってあげたよな?」
「……ちょっとあんた、何あたしの知らない間に家族買収してんのよ……!」
「いやだな、俺は未来の義妹とただ仲良くしようと……」

 冷然と怒る姉と、のらりくらりとそれをかわす少年。
 どうしたらいいんだろうかと両親を見上げた咲は、思わずあとずさった。

 二人が二人とも、どことなく脅迫するような目でこちらを見ていたからだ。

「……ねえ、面白そうだからいいわよね? 咲」
「こんな得体の知れない男と一緒なのはいやだよな、咲」




 ――だ……誰か、助けて……!



 思わず逃げ出したくなった咲がどう答えたのかは、とりあえず謎のままである。









 あけましておめでたいような気がしないでもないです。



 ――なのになんで、新年からこんな目にあってるのか、どーか教えてくださいあの世のお祖母ちゃん。