09. 変わらないもの

「それで、続きなんだけど」
「続けるのかよ! それきりじゃなかったのか!」

 すっかり日の暮れた夜道を歩きながら、俺は全力でつっこんだ。
 警察からの事情聴取はこれで二度目だが(一己はどうなのか知らない)、できれば今後一生機会がないことを祈りたい。相手も仕事だとわかっちゃいるが、時間はかかるし同じ事を何度も聞かれるし精神的なプレッシャーが半端ないしで、本当に心底疲れ切った。

 そこに一己からの追撃である。
 勘弁してくれ。本当に。

「なんでほじくり返すんだよ……! 面白い話でもないだろ!」
「うん。正直言えば、おもしろくない。双子なのに、奥野が選んだのは二巳だったわけだし。……でも、まあ……俺のせいで奥野が振られるっていうのは、なんかいやだなあって思うわけだよ」
「……付き合ったら付き合ったでムカつくだろ」
「そりゃまあ。でも、それだと吹っ切れるかな。奥野を泣かしたら殴るって言って、あとは、諦められるように頑張るしかないし」

 まん丸に近い月が、やたらと明るく路面を照らし出している。
 一己は、いつもののんびりした口調で言った。

「奥野はさ。いい子だよ」
「……そりゃ、お前はそう言うだろ」
「うん。なんていうか……奥野の『おかえり』が、一番嬉しいような気がしたんだ。……なんでなんだか、自分でもよくわかんないけど」

 俺の思っていたものより、一己の言葉は、重く聞こえた。
 笑顔が好きだとか、優しいところが好きだとか、気がきくところだとか――想像していたのはそんな言葉だった。
 よく聞く言葉で、奥野にも当てはまる言葉だ。

 ……「おかえり」か。

 飄々とどこかに行って、あっさりと帰ってきているような気がしていたが、こいつにもそれなりの危機感があったのかもしれない。
 帰ってくることができたと、ほっとするくらいには。

 まったく声のトーンを変えずに、生まれてこのかた十六年来のつきあいになる、俺の片割れは続けた。

「二巳は、ちゃんと奥野と向き合うべきだと思う。俺を理由にしてないでさ。……それでどうなったって、俺らが変わるわけじゃない。どうせこの先、一生、兄弟だってのは変わらないだろ」
「……そうだな。どれだけ嫌がろうがな」
「またまたー。そんなに嫌じゃないくせに」
「本格的に嫌がられたくなきゃ厄介事に巻き込まれて諦めるのやめろよ」
「……そうしたいんだけど、なんっか毎回、気づいたときには後に引けなくなってるんだよなあ……」

 俺とこいつの人生は、もうすでに、随分と道が分かたれてしまっているんだろうと思う。

 俺の未来は予想がつく。
 普通に高校を出て、大学に入って思う存分数学をやって、多分それが役に立つ仕事は無理だから必死こいて就職活動をして、なんとか社会人になって働いて。

 多分、こいつはそうならない。
 そう望んでも、周囲が、もしかしたら運命ってやつが、それを許してくれない気がする。
 日本にいるかどうかさえ怪しい。さすがに地球上にはいるだろうと信じたい。ともかく、そのころには、顔をあわせることさえ数年ごととか、十年ごととか、そんなことになってしまうかもしれない。

 それでも、兄弟という血のつながりは変わらない。死ぬまでずっと。

「……そうか。……変わらないのか」

 一己もそう思っているのだと知って、俺は、少し嬉しかった。